ウイスキー愛好家の間で「スペイサイドの隠れた宝石」と称えられ、玄人たちから絶大な信頼を寄せられている蒸留所をご存知でしょうか。その名は「ロングモーン」。
華やかでフルーティー、そして驚くほどクリーミーな口当たり。スコットランドの数ある蒸留所の中でも、ブレンダーたちが「他の蒸留所の原酒と混ぜるのがもったいない」とまで口を揃える、圧倒的な完成度を誇るシングルモルトです。
今回は、このロングモーンの奥深い魅力から、歴史的な背景、そして今飲むべきラインナップまでを徹底的に解説していきます。
ロングモーンが「ブレンダーの隠し酒」と呼ばれる理由
ウイスキーの世界には、表舞台で華やかに宣伝される銘柄の裏で、プロたちがこっそりとその品質を認め、自分たちのブレンドの質を底上げするために重宝する「トップドレッサー(最上級の飾り)」と呼ばれる原酒が存在します。
ロングモーンは、まさにその筆頭格です。かつて多くのマスターブレンダーが「自分の蒸留所以外で、2番目に好きな蒸留所を挙げるなら?」という質問に対し、こぞってその名を挙げたという逸話があるほどです。
なぜそこまでプロを虜にするのでしょうか。その秘密は、蒸留所の徹底したこだわりと、生み出される原酒の「厚み」にあります。
ロングモーンは1894年、ジョン・ダフによって設立されました。彼は当時としては画期的な、蒸留所内に直接鉄道を引き込むという近代的な設備を導入しました。この「蒸留所と鉄道」の繋がりは、現在のボトルデザインにもモチーフとして刻まれています。
また、ロングモーンの蒸留器は、かつては石炭の直火焚きで加熱されていました。現在は熱効率の観点から蒸気加熱へと切り替わっていますが、その「力強く、リッチで、クリーミーな骨格」という伝統的なスタイルは、現代の生産プロセスにも見事に引き継がれています。
日本のウイスキーの父・竹鶴政孝が愛した場所
日本人としてロングモーンを語る上で絶対に外せないのが、ニッカウヰスキーの創業者であり「日本のウイスキーの父」と呼ばれる竹鶴政孝氏との深い縁です。
1919年、若き日の竹鶴氏はスコットランドへ留学し、本場のウイスキー造りを学びました。彼がリタ夫人と結婚する直前、実地研修の場所として選んだのがこのロングモーン蒸留所だったのです。
竹鶴氏はここで一週間という短い期間ではありましたが、当時の最先端の技術と、職人たちの魂を肌で感じました。彼が書き残した「竹鶴ノート」には、ロングモーンでの学びが詳細に記されており、それが後の余市蒸留所や宮城峡蒸留所、そして竹鶴というブランドの礎になったことは間違いありません。
つまり、私たちが今楽しんでいるジャパニーズウイスキーのDNAの源流の一つは、このロングモーンにあると言っても過言ではないのです。そう考えると、グラスに注がれた琥珀色の液体が、より一層感慨深いものに感じられませんか?
ロングモーンの味の特徴:官能的なフルーティー&クリーミー
では、実際にロングモーンを口にすると、どのような体験が待っているのでしょうか。その味わいのプロファイルを一言で表現するなら「フルーティー&クリーミー」です。
- 香りの第一印象グラスに鼻を近づけると、まず飛び込んでくるのは完熟した洋梨やマンゴー、パイナップルのようなトロピカルなフルーツ香です。そこにハチミツをかけたバニラカスタードのような、甘く濃密なニュアンスが重なります。
- 口当たりと味わい口に含んだ瞬間、驚くのはその質感です。まるでシルクのように滑らかで、バターやソフトキャラメルのようなオイリーな厚みがあります。リンゴのコンポートやオレンジチョコレートのような上品な甘みが広がり、中盤からはナッツのような香ばしさと、シナモンを思わせる微かなスパイス感が顔を出します。
- 余韻の長さ飲み込んだ後の余韻は非常に長く、エレガントです。オーク樽由来の心地よい温かみが喉の奥に留まり、最後にはドライでスッキリとした果実の皮のような香りが鼻へ抜けていきます。
この「重厚感があるのに、どこまでも華やか」という二面性こそが、ロングモーンが世界中のファンを惹きつけてやまない最大の理由です。
今こそ知りたいロングモーンの種類とラインナップ
ロングモーンは、2024年に大きなリニューアルを遂げました。ブランドの方向性をより「ラグジュアリー」へとシフトし、パッケージも中身も一新されています。現在入手しやすいものから、ファン垂涎の旧ボトルまでを見ていきましょう。
ロングモーン ディスティラーズチョイス
ロングモーン ディスティラーズチョイスは、年数表記のないノンエイジボトルですが、ロングモーンの個性を手軽に知るためのエントリーモデルとして最適です。
非常にクリーミーで飲みやすく、初めてロングモーンを飲む方にもおすすめできます。フレッシュなリンゴやハチミツの甘みが主体で、ストレートはもちろん、ハイボールにしてもその芯の強さは失われません。
ロングモーン 18年(現行品)
2024年のリニューアルで登場した、現在のフラッグシップとも言える一本です。48%という高めのアルコール度数でボトリングされており、原酒の力強さをダイレクトに感じることができます。
アメリカンオークのホグスヘッド樽で熟成されたこのロングモーン 18年は、熟したマンゴーやキャラメルのようなリッチな風味が極まっており、まさに「贅沢な時間」を過ごすためのウイスキーです。
ロングモーン 22年(現行品)
さらに長熟のロングモーン 22年は、洗練されたスペイサイドモルトの到達点の一つです。20年を超える熟成によって、フルーツの香りはより複雑になり、ドライフルーツや焼きたてのビスケット、あるいは古い図書館を思わせるような落ち着いたオークのニュアンスが加わります。自分への特別なご褒美や、大切な方へのギフトとしてもこれ以上のものはありません。
旧ボトルの伝説:15年と16年
もしバーで見かけることがあれば、ぜひ試していただきたいのが旧ボトルのロングモーン 15年や16年です。
特に旧15年は、今なお「ロングモーン史上最高傑作」と語り継がれる伝説的なボトルです。現在の華やかなスタイルに比べ、より土っぽさや重厚なコクが強く、当時の製法の力強さを感じることができます。
プロが教えるロングモーンの最高に美味しい飲み方
これほどまでに完成度の高いロングモーン。そのポテンシャルを最大限に引き出すための飲み方をご紹介します。
1. まずはストレートで
最初は何も足さず、ストレートでその「質感」を楽しんでください。口の中で転がすように味わうと、体温で温められた液体から、次々と異なるフルーツの香りが溢れ出してくるはずです。
2. 数滴の加水で「香りの爆発」を体験
ストレートで楽しんだ後、ティースプーン一杯程度の水を数滴垂らしてみてください。これを「加水」と呼びますが、水を加えることでウイスキーの分子構造が変化し、閉じ込められていた香りが一気に開きます。バニラや花の香りがより鮮明になり、表情がガラリと変わる様子は魔法のようです。
3. 至福のトワイスアップ
特にアルコール度数の高い18年などには、水とウイスキーを1:1で割る「トワイスアップ」もおすすめです。アルコールの刺激が抑えられることで、ロングモーン特有のシルキーな甘みがより強調され、デザートワインのような感覚で楽しむことができます。
4. 贅沢すぎるハイボール
ロングモーン ディスティラーズチョイスを使うなら、ぜひハイボールも試してみてください。
強めの炭酸で割っても、ロングモーンの持つクリーミーなコクは決して消えません。レモンピールを軽く絞ると、フルーティーさがさらに引き立ち、どんな食事にも合う極上の食中酒へと変貌します。
ロングモーンと一緒に楽しみたい至高のペアリング
ウイスキーは単体でも素晴らしいですが、相性の良いフードを添えることで、その体験はさらに豊かになります。
- ドライフルーツ(マンゴー・アプリコット)ロングモーンの持つトロピカルな風味と完璧に共鳴します。ドライフルーツの凝縮された甘みが、ウイスキーの果実味をより一層引き立ててくれます。
- ミルクチョコレートやキャラメルこのウイスキーのクリーミーな質感は、乳製品やキャラメルとの相性が抜群です。口の中でチョコレートが溶ける瞬間にロングモーンを一口含むと、まるでお菓子のような濃厚なハーモニーが生まれます。
- ナッツ(素焼きのアーモンド)樽由来の香ばしさと、ナッツの油分が合わさることで、味わいに奥行きが出ます。シンプルですが、飽きのこない組み合わせです。
- メイン料理なら「鴨のロースト」もし食事と一緒に楽しむなら、鴨のローストにオレンジソースを添えたものなどが最高です。肉の脂をウイスキーのボリューム感が受け止め、オレンジの風味がウイスキーのフルーティーさと見事にリンクします。
ウイスキー「ロングモーン」の味や種類を解説!プロ絶賛の銘柄や飲み方も紹介:まとめ
ここまでロングモーンの魅力について余すところなくお伝えしてきました。
スコットランドのスペイサイドが生んだ、この気高くも美しいシングルモルト。ブレンダーたちがこぞって愛し、あの竹鶴政孝が若き日に心酔したその味は、時代を超えて今もなお私たちの心を捉えて離しません。
「ウイスキーは種類が多すぎて何を選べばいいかわからない」という方も、もし「本当に美味しい、質の高いものが飲みたい」と感じているなら、ぜひ一度ロングモーンを手に取ってみてください。
その一口は、あなたにとっての「理想のウイスキー」の基準を、一段階引き上げてしまうかもしれません。
まずはロングモーン ディスティラーズチョイスでその滑らかさに驚き、余裕があればロングモーン 18年でそのリッチな深淵に触れてみてください。グラスの中に広がるスペイサイドの風と、100年以上の歴史が紡いできた物語。それを体験できるのは、今この記事を読み終えたあなただけの特権です。
極上のウイスキー体験を、ぜひ楽しんでくださいね。

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