ウイスキーの楽しみ方として、バーテンダーや愛好家がこぞって推奨する「トワイスアップ」。ウイスキーと常温の水を1:1で割るというシンプルな飲み方ですが、実際に試してみて「……正直、まずい」と感じたことはありませんか?
「香りがひらく」なんて言われるけれど、自分でやってみると味が薄まって水っぽくなるだけ。結局、ストレートかハイボールの方が美味しいじゃないか。そんな風にガッカリしてしまった方にこそ、この記事を読んでいただきたいのです。
実は、トワイスアップが「まずい」と感じるのには明確な理由があります。そして、ほんの少しのコツで、そのグラスの中の世界は劇的に変わります。今回は、トワイスアップの失敗原因から、プロが実践する最高の1杯を作るための黄金比まで、徹底的に解説していきます。
なぜトワイスアップが「まずい」と感じてしまうのか?
せっかくの良いウイスキーを水で割ったのに、期待外れに終わってしまう。その背景には、いくつかの「落とし穴」が隠れています。
1. アルコール度数の急激な変化に舌が追いつかない
ストレートのウイスキーは度数が40度以上あります。これを1:1で割ると20度前後まで下がります。このとき、ウイスキーに含まれる「エステル」という香り成分が表面に浮き上がってくるのですが、同時に「飲みごたえ(ボディ)」も半分になります。普段からストレートやロックの強い刺激を好む方にとっては、この落差が「物足りなさ=まずさ」として知覚されてしまうのです。
2. 水の質と温度がミスマッチ
トワイスアップは「常温」が基本ですが、この「常温」の定義が曖昧だと失敗します。例えば、夏場の生ぬるい水道水を使ってしまうと、ウイスキーのアルコールの刺々しさや、原酒のネガティブな風味が強調されてしまいます。また、水道水の塩素臭(カルキ臭)は、繊細なウイスキーの香りを一瞬で台無しにする天敵です。
3. グラスの選択ミス
広い口のロックグラスや、厚みのあるタンブラーでトワイスアップを飲んでいませんか?トワイスアップの最大の目的は「香り」を楽しむことです。口が広いグラスでは、せっかく立ち上がった香りが四方八方に逃げてしまい、残るのは「薄まった液体」の味だけ。これが「まずい」と感じる大きな要因の一つです。
4. 銘柄との相性が悪い
すべてのウイスキーがトワイスアップに向いているわけではありません。もともとライトで軽やかなタイプのブレンデッドウイスキーを1:1で割ると、個性が完全に消えてしまい、ただの「ウイスキー風味の水」になってしまうことがあります。
失敗しないための「黄金の作法」と準備
トワイスアップを劇的に美味しくするために、まずは「道具」と「水」を見直してみましょう。これだけで、今までの「まずい」が嘘のように解消されます。
使用するグラスにこだわる
トワイスアップを飲むなら、グレンケアン テイスティンググラスのような、底がふっくらとして口がすぼまったグラスが理想的です。
この形状が、加水によって放たれた香り成分をグラスの中に閉じ込め、鼻腔へとダイレクトに届けてくれます。ワイングラスでも代用可能ですが、できれば小ぶりのテイスティング専用グラスを用意することをおすすめします。
水は「軟水」の天然水を選ぶ
ウイスキーはもともと、その土地の柔らかな水で作られることが多いお酒です。そのため、合わせる水も硬度の低い「軟水」がベストです。日本で手に入るミネラルウォーターの多くは軟水ですが、特に仕込み水に近い性質を持つものを選ぶと、ウイスキーとの馴染みが格段に良くなります。
温度は「20度前後」を意識する
「常温」と言っても、季節によって室温は異なります。理想は18度から22度程度。冬場に冷え切った水を使うと香りが立ちにくく、夏場に暑すぎる水を使うとアルコールが鼻を突きます。水をおしゃれなジャグに移し、室温に馴染ませておくのがプロのこだわりです。
プロ直伝!トワイスアップを最高に楽しむ手順
それでは、実際に作ってみましょう。ポイントは「混ぜすぎないこと」と「段階を踏むこと」です。
1. 先にウイスキーを注ぐ
まずはグラスにウイスキーを注ぎます。量は30ml(シングル)程度が目安です。この時点で一度香りを嗅ぎ、ストレートの状態を確認しておきます。
2. 水をゆっくりと注ぎ入れる
ウイスキーと同量の水を、糸を引くようにゆっくりと注ぎます。ここで大切なのは、注ぐ順番です。必ず「ウイスキーが先、水が後」です。水の方が比重がわずかに重いため、後から注ぐことで自然に対流が起こり、無理に混ぜなくても綺麗に混ざり合います。
3. ステアは最小限に
マドラーなどでグルグルとかき混ぜる必要はありません。グラスを軽く回す(スワリングする)程度で十分です。過度にかき混ぜると、せっかくの繊細な香りが飛んでしまいます。
4. 「1:1」を疑ってみる
ここが最も重要なポイントです。「トワイスアップ=1:1」というのは、あくまで目安に過ぎません。ウイスキーの銘柄によっては、1:0.5(ウイスキー2に対し水1)くらいが最も香りと味のバランスが良い「スイートスポット」であることも多いのです。
まずは数滴から始め、少しずつ水を足していき、自分の鼻と舌が「一番美味しい!」と叫ぶポイントを探してみてください。この探求プロセスこそが、トワイスアップの醍醐味です。
トワイスアップで個性が大爆発するおすすめ銘柄
トワイスアップにすることで、隠れていた個性が一気に花開くウイスキーをご紹介します。これらを試せば、「トワイスアップがまずい」という偏見は消え去るはずです。
シェリー樽由来の甘みを引き出す
シェリー樽で熟成されたザ・マッカラン 12年 シェリーオークやグレンドロナック 12年は、加水することでドライフルーツやチョコレートのような濃厚な甘みが一気に広がります。ストレートでは重厚すぎて感じ取りにくかった繊細なベリー系の香りが、水一滴でパッと明るくなる感覚は驚きです。
スモーキーな香りを手なずける
アイラモルトの代表格であるラフロイグ 10年やアードベッグ 10年。これらは非常に力強いピート(煙)の香りが特徴ですが、トワイスアップにすると煙の奥に隠れていたバニラのような甘みや、潮風のニュアンスがくっきりと現れます。強烈な個性が「調和」へと変わる瞬間を楽しめます。
カスクストレングスの真価を味わう
樽出しそのままの度数でボトリングされたアベラワー アブーナなどのカスクストレングスは、トワイスアップに最適です。もともとの度数が60度近いため、1:1で割っても30度程度の飲みごたえが残り、なおかつ香りの爆発力は凄まじいものがあります。
もしトワイスアップで失敗してしまったら?
「やっぱり水を入れすぎて薄くなった……まずい……」となってしまった時のリカバリー方法も覚えておきましょう。
- 追いウイスキー(ドロップ):単純ですが、原酒を少し足して度数を戻しましょう。
- レモンピールを飛ばす:加水で水っぽさが目立つ場合、レモンの皮の油分をシュッとひと吹きするだけで、フレッシュな香りが全体を引き締めてくれます。
- チェイサーとして活用する:もし飲み進められないほど薄く感じたら、それを無理に飲まず、次に飲むストレートの「口直し(チェイサー)」として活用してください。水よりもウイスキーの成分が入っている分、口の中の環境を劇的に変えすぎず、次の1杯を美味しくしてくれます。
まとめ:ウイスキーのトワイスアップがまずい?プロが教える失敗しない作り方と解決策
トワイスアップは、決して「ウイスキーを薄めて飲みやすくするだけの手段」ではありません。それは、ウイスキーが持つポテンシャルを最大限に引き出し、ブレンダーが見ている景色を共有するための「精密なテイスティング手法」なのです。
「まずい」と感じていたのは、水の量や温度、あるいはグラスの形状が、そのウイスキーの個性に合っていなかっただけかもしれません。
- 専用のテイスティンググラスを使う
- 常温の軟水を用意する
- 1:1にこだわらず、数滴ずつ加水して「変化」を観察する
この3点を守るだけで、あなたのウイスキー体験は今まで以上に豊かで深いものになるはずです。今夜は、お気に入りのボトルサントリー シングルモルト ウイスキー 山崎などを手に取って、自分だけの「最高の一滴」を探してみてはいかがでしょうか。
トワイスアップの本当の魅力を知ることで、ウイスキーという液体に込められた何十年もの時の流れが、より鮮明に語りかけてくるのを感じられるはずですよ。

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