「安くて美味しいウイスキーといえば?」と聞かれて、多くのウイスキーファンが真っ先に名前を挙げていた銘柄があります。それがキリンの富士山麓 樽熟原酒50°です。
かつてはスーパーやコンビニの棚に当たり前のように並び、1,000円台という破格の安さでありながら、アルコール度数50%という圧倒的な力強さと濃厚な味わいを楽しめる「コスパ最強」の一本でした。しかし、ある日を境に店頭から姿を消し、多くの方が「あの富士山麓はどこへ行ったの?」と悲鳴を上げたものです。
この記事では、ウイスキー富士山麓がなぜ終売してしまったのかという裏事情から、今手に入る「シグニチャーブレンド」の真価、そして後継品として注目される「陸」との違いまで、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。
伝説の「富士山麓 樽熟原酒50°」が終売した本当の理由
かつてデイリーウイスキーの王者に君臨していた富士山麓 樽熟原酒50°が、2019年3月をもって終売となったニュースは、業界に大きな衝撃を与えました。
その理由は、皮肉にも「売れすぎてしまったこと」にあります。2010年代後半から、世界的なジャパニーズウイスキーブームが巻き起こり、国内だけでなく海外からも注文が殺到しました。さらに、ハイボール人気の定着によって、原酒の消費スピードがメーカーの想定を遥かに上回ってしまったのです。
特に富士山麓は「アルコール度数50%」というこだわりを持っていました。一般的なウイスキーは40%程度に加水して調整されますが、50%でボトリングするということは、それだけ一瓶に使う原酒の量が多くなることを意味します。原酒不足が深刻化する中で、この贅沢な仕様を維持し続けることが物理的に困難になったというのが、終売の決定的な理由です。
現在、この旧モデルを店頭で見かけることはほぼありません。オークションや一部の酒屋で見つかることもありますが、当時の価格を知る人からすれば驚くようなプレミアム価格がついていることも珍しくありません。
現行の「富士山麓 シグニチャーブレンド」は何が違うのか
旧ボトルが姿を消した後、ブランドの象徴として君臨しているのが富士山麓 シグニチャーブレンドです。こちらは「日常使いの安酒」という立ち位置から、一歩踏み込んだ「プレミアムなブレンデッドウイスキー」へと進化を遂げています。
「シグニチャーブレンド」とは、その名の通り、富士御殿場蒸溜所のマスターブレンダーが「今、最も美味しい」と認めた熟成のピーク(マチュレーションピーク)を迎えた原酒のみを厳選してブレンドした逸品です。
旧ボトルとの最大の違いは、その洗練された味わいにあります。アルコール度数50%の力強さはそのままに、熟成感のある華やかな香りが格段にアップしました。洋梨やオレンジピールを思わせるフルーティーな香りと、樽由来のバニラやキャラメルのような甘い余韻が長く続きます。
価格帯は5,000円前後に上がりましたが、そのクオリティは「1万円クラスのウイスキーに匹敵する」と専門家からも高く評価されています。自分へのご褒美や、大切な人へのギフトとして選ぶには最適な一本と言えるでしょう。
富士山麓が「まずい」と言われる噂の真相を考察する
インターネットで検索すると、稀に「富士山麓はまずい」という極端な意見を目にすることがあります。あんなに愛されていたお酒なのに、なぜそんな声が出るのでしょうか。そこには、このウイスキーが持つ「強烈な個性」が関係しています。
大きな要因の一つは、やはり50度という高いアルコール度数です。ウイスキーを飲み慣れていない方がストレートで口にすると、アルコールの刺激を強く感じすぎてしまい、「ただ辛いだけのお酒」と誤解してしまうケースがあるのです。
また、富士山麓は「ノンチルフィルタード製法」という、冷却濾過を行わない手法を採用しています。これは原酒本来の旨味やオイル分を残すためのこだわりなのですが、その分、味わいが非常に濃厚でどっしりとしています。スコッチのようなドライさやスモーキーさを強く求める方からすると、この甘やかで重厚なボディが「重すぎる」と感じられることがあるのかもしれません。
しかし、これは裏を返せば「飲み応えが抜群である」という最大のメリットでもあります。飲み方ひとつで表情が劇的に変わるのが富士山麓の面白さなのです。
富士御殿場蒸溜所が守り続ける「クリーン&エステリー」の哲学
ウイスキー富士山麓を語る上で欠かせないのが、静岡県御殿場市にある「富士御殿場蒸溜所」の存在です。富士山の麓、標高約600メートルに位置するこの蒸溜所には、世界でも類を見ない特徴があります。
それは、モルトウイスキー(大麦麦芽が原料)とグレーンウイスキー(トウモロコシなどの穀物が原料)の両方を、同じ敷地内で製造している点です。通常、これらは別の蒸溜所で造られることが多いのですが、一貫生産することで、ブレンドの自由度が飛躍的に高まっています。
特筆すべきは、富士山の伏流水を使用していることです。約50年もの歳月をかけて富士山の地層で濾過された水は、ウイスキーに透明感と華やかさを与えます。これがキリンの掲げる「クリーン&エステリー(清らかで華やか)」なスタイルです。
また、グレーンウイスキーの製造においても、世界的に珍しい3種類の蒸溜器を使い分けています。ライト、ミディアム、ヘビーという異なる性格のグレーン原酒を造り分けることで、富士山麓特有の深みと奥行きが生み出されているのです。
後継品としての「陸」は富士山麓の代わりになるのか?
富士山麓の終売後、日常的に楽しめる価格帯のラインナップとして登場したのがキリンウイスキー 陸です。ラベルに大きく「PURE & MELLOW」と記されたこのボトルは、富士山麓のDNAを色濃く受け継いでいます。
キリンウイスキー 陸の最大の特徴は、富士山麓と同じくアルコール度数50%を維持している点です。これにより、ハイボールにしても味わいが崩れず、ガツンとした満足感を得ることができます。
しかし、味わいの方向性は少し異なります。
- 富士山麓は「濃厚・重厚・樽の甘み」が主体。
- 陸は「クリーン・軽快・柔らかな甘み」が主体。
「陸」はより現代的な飲み方に最適化されており、食事を邪魔しないスッキリとした後味が魅力です。富士山麓のドロリとした濃厚さを求めている方には少し物足りないかもしれませんが、「力強いハイボールを楽しみたい」というニーズに対しては、完璧な回答となっている一品です。
富士山麓の魅力を最大限に引き出す美味しい飲み方
せっかくの素晴らしいウイスキーですから、そのポテンシャルを120%引き出す飲み方を試してみましょう。
- ハイボールで飲む富士山麓といえばハイボール、と言われるほど相性が抜群です。グラスをしっかり冷やし、氷をたっぷり入れて、ウイスキーとソーダを1:3から1:4の割合で作ります。50度の度数があるため、ソーダで割ってもバニラのような甘い香りが死なず、最後まで美味しく飲めます。レモンは入れず、ウイスキーの甘みをダイレクトに感じるのがおすすめです。
- ロックで楽しむ富士山麓 シグニチャーブレンドを楽しむなら、ロックが一番の推奨です。大きな氷にウイスキーを注ぎ、ゆっくりとステアします。少しずつ氷が溶けて加水が進むにつれ、閉じていた香りが一気に花開きます。温度変化による味わいの移ろいを楽しむ、贅沢な時間になります。
- ちょい水(加水)「ストレートだとアルコールが強すぎる」と感じる方は、数滴からティースプーン一杯ほどの水を足してみてください。これを専門用語で「加水」と呼びますが、水を入れることでアルコールの刺激が和らぎ、奥に隠れていたフルーティーな香りが引き出されます。
ウイスキー富士山麓の魅力とは?終売の理由や後継の「陸」との違い、評価を徹底解説!
ここまでウイスキー富士山麓の歴史と現状を紐解いてきました。かつての安価なボトルがなくなったことは残念ですが、現在の「シグニチャーブレンド」は、日本のウイスキー造りの技術が到達した一つの完成形とも言える素晴らしい品質を誇っています。
富士山の清らかな水と、御殿場の冷涼な気候、そして熟成のピークを見極めるブレンダーの職人技。これらが三位一体となって生まれる富士山麓は、まさに日本の自然が生んだ芸術品です。
「昔飲んでいたけれど、最近は手に取っていない」という方も、これからウイスキーを本格的に楽しみたいという方も、ぜひ一度、現行の富士山麓 シグニチャーブレンドや、その魂を継承したキリンウイスキー 陸を試してみてください。グラスの中に広がる富士の雄大な景色と、職人たちの情熱を感じることができるはずです。
ウイスキーの楽しみ方は自由です。まずは難しく考えず、お気に入りのグラスを用意して、自分なりの最高の一杯を見つけてみてくださいね。

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