「ウイスキーがお好きでしょ」というあのメロディが聞こえてくると、ふとグラスを傾けたくなる。そんな経験はありませんか?
日本のウイスキー文化は、テレビCMという銀幕の魔法によって育まれてきたといっても過言ではありません。お茶の間に流れるわずか数十秒の映像が、かつては「おじさんの飲み物」だったウイスキーを、憧れの大人像や、日常の食卓に欠かせない「ハイボール」へと変貌させてきました。
今回は、私たちの心に深く刻まれた歴代のウイスキーCMを振り返りながら、時代を彩った名曲や豪華な出演陣、そして最新のトレンドまでを一気に紐解いていきましょう。
昭和から令和へ。時代を作ったウイスキーCMの力
日本のウイスキー広告を語る上で、まず避けて通れないのがサントリーとニッカウヰスキーによる「物語」の作り込みです。かつてのCMは、単に商品を売るためのものではなく、ひとつの短編映画のような情緒を纏っていました。
特に昭和の時代、サントリーオールドのCMは社会現象ともいえる影響力を持っていました。夜の静寂の中に流れるスキャット、そして名優たちの渋い演技。そこには、戦後から高度経済成長期を経て、豊かさを手に入れた日本人が抱く「孤独と癒やし」が投影されていたのです。
時代が平成に変わると、ウイスキーの立ち位置は少しずつ変化します。冬の時代を乗り越えるべく登場したのが、今や国民的飲料となったハイボールのCMでした。「ウイスキーは食事に合う」という新しい常識を植え付けたのは、まさに広告の力だったのです。
記憶に焼き付く!歴代の豪華出演者とキャッチコピー
ウイスキーのCMには、その時代を象徴するスターが起用されてきました。彼らがグラスを持つ姿に、私たちは「いつかは自分もあんな風に」と憧れを抱いたものです。
- サントリーレッドと大原麗子さん「すこし愛して、ながく愛して。」このあまりにも有名なフレーズは、多くの日本人の心を掴みました。清楚で可愛らしい店主が語りかける姿は、当時の男性たちにとって最高の癒やしであり、家庭でサントリーレッドを楽しむ文化を定着させました。
- サントリーオールドと石原裕次郎さん「男は、黙ってサントリーオールド」という空気を体現していたのが石原裕次郎さんです。豪華客船や海外の風景をバックに、言葉少なにグラスを傾ける姿は、まさに銀幕のスターにしか出せない重厚感がありました。
- ニッカウヰスキーと個性派俳優たちニッカのCMは、どこか職人気質で無骨な美学が貫かれています。創業者の物語を彷彿とさせる映像や、ブラックニッカのCMで見せる松山ケンイチさんやムロツヨシさんの自然体な演技は、ウイスキーをより身近な存在へと引き寄せてくれました。
耳から離れない!ウイスキーCMを彩る名曲の魔力
映像と同じくらい重要なのが「音楽」です。イントロを聴くだけで、琥珀色の液体と氷のぶつかる音が脳内に再生される名曲がいくつもあります。
- 「夜がくる」小林亜星さん作曲のサントリーオールドのテーマ曲です。歌詞のない「ダディードゥダー」というスキャットは、仕事で疲れた心にそっと寄り添うような優しさがあります。2020年代になった今でも、この曲が流れるだけで空間の質が変わるような気がします。
- 「ウイスキーが、お好きでしょ」石川さゆりさんから始まり、竹内まりやさん、井川遥さんへと歌い継がれてきたこの曲は、現代のウイスキーCMを象徴する一曲です。角ハイボールのヒットと共に、この曲は「楽しい酒の席」の合図になりました。
- 「ビヨンド・ザ・シー」トリスクラシックのCMで流れる軽快なジャズナンバーです。アンクルトリスの可愛いキャラクターと一緒にこの曲が流れると、ウイスキーをもっとカジュアルに、もっと自由に楽しんでいいんだという気持ちにさせてくれます。
ハイボールブームを支えた「バーの店主」というアイコン
現代のウイスキーCMにおいて、最も成功した戦略の一つが「理想のバーの店主」シリーズでしょう。
かつて小雪さんが演じた「ハイボールを丁寧に作る店主」の姿は、ハイボールという飲み物に圧倒的な清潔感とプレミアム感を与えました。その後を継いだ菅野美穂さん、そして現在の井川遥さんに至るまで、彼女たちが演じる「少し浮世離れした、でも温かいバー」の世界観は、視聴者にとっての桃源郷のような役割を果たしています。
井川遥さんのシリーズでは、常連客たちが美味しそうにハイボールと唐揚げ(ハイカラ)を頬張るシーンが印象的です。これによって「ウイスキーはバーで静かに飲むもの」という固定観念が壊され、「居酒屋でガッツリ食べながら飲むもの」という新しいライフスタイルが確立されました。
現在では、蒼井優さんがそのバトンを引き継ぎ、より若々しく、より日常に寄り添ったサントリー角瓶の魅力を伝えています。
最近のトレンド:多様化する飲み方と最新CMの傾向
2026年現在、ウイスキーの楽しみ方はさらに多様化しています。CMの内容も、単なる「憧れ」から「自分らしさ」へと軸足が移っています。
- 「タイニー・ポア」とプレミアム志向最近のCMでは、大量に飲むことよりも、サントリー山崎や余市のようなプレミアムな銘柄を、ストレートやロックで一口ずつゆっくり味わうシーンが増えています。これは、アルコールとの付き合い方が「量より質」へと変化している社会背景を反映しています。
- ペアリングの進化ハイボールと唐揚げのコンビは定番ですが、最近のブラックニッカやトリスの広告では、もっと意外な組み合わせが提案されています。スイーツと一緒に楽しんだり、和食と合わせたりと、ウイスキーが持つ懐の広さを強調する演出が目立ちます。
- 自宅での「家飲み」の質を高めるコロナ禍以降、自宅で美味しいハイボールを作る「おうちバー」の需要が高まりました。CMでも、氷の入れ方や炭酸の注ぎ方など、家庭ですぐに真似できるコツをさりげなく盛り込んだものが増えています。
差別化された演出:ニッカ対サントリー
競合する二大メーカーのCMを比較するのも面白い楽しみ方です。
サントリーは、徹底して「情緒」と「文化」を作ります。豪華なタレントと耳に残る音楽、そして洗練された美術セット。視聴者に「その世界観の一部になりたい」と思わせる魔法をかけるのが得意です。
一方でニッカは、しばしば「ユーモア」や「本物感」を強調します。髭のウイスキーのロゴを象徴的に使いつつ、親しみやすいキャラクターを配置することで、伝統を守りながらも堅苦しくないブランドイメージを構築しています。
どちらが良いというわけではなく、この二つの異なるアプローチが競い合ってきたからこそ、日本のウイスキーCMはこれほどまでに豊かな表現を手に入れたのです。
ウイスキーCMが教えてくれる「豊かな時間」の過ごし方
私たちがCMを見て「美味しそうだな」と感じる時、それは単に液体の味を想像しているだけではありません。そこにある空気感、グラスの結露、大切な人との会話、あるいは一人の静かな時間。そうした「豊かな時間そのもの」を求めているのではないでしょうか。
かつての名作CMたちが描いた「男の哀愁」も、今のCMが描く「賑やかな食卓」も、すべては私たちの人生を少しだけ彩るためのエッセンスです。
お気に入りのグラスを用意して、CMで見たあの作り方を真似してみる。あるいは、名曲をBGMに流しながら、ゆっくりと琥珀色の液体を眺めてみる。そんな贅沢なひとときを、ウイスキーはいつも提供してくれます。
歴代のウイスキーCM名作選!心に残る俳優・名曲と人気のハイボール事情まで網羅
さて、ここまで数々の名作を振り返ってきましたが、あなたにとっての「最高の1本」や「忘れられない1シーン」は見つかったでしょうか。
テレビから流れるウイスキーCMは、時代を映す鏡です。かつて憧れたあのスターの姿は、今のあなたにどう映るでしょうか。そして、今のCMが提案する新しい飲み方は、あなたの日常にどんな変化をもたらしてくれるでしょうか。
今日、帰りに酒屋やスーパーに寄ったら、ぜひ棚に並ぶウイスキーたちを眺めてみてください。そこには、広告たちが紡いできた長い歴史と、これからあなたが作る新しい物語が詰まっています。
ウイスキーグラスを新調して、今夜は少しだけ贅沢な時間を過ごしてみませんか?CMのような素敵な夜が、あなたを待っているかもしれません。

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