「ウイスキーは寝かせれば寝かせただけ美味しくなる」
そんな風に思っていた時期が、私にもありました。酒屋さんの棚に並ぶ「12年」「18年」という数字。それらが付いていないボトル、いわゆる「ノンエイジ(NAS:ノン・エイジ・ステートメント)」を見ると、なんだか格下に感じてしまう……。
もしあなたが「ノンエイジって、熟成が足りない安物なんじゃないの?」と疑っているなら、それは非常にもったいないことです。実は今、世界中のウイスキーファンが熱狂し、ブレンダーたちが最もクリエイティビティを発揮しているのは、このノンエイジの世界なんです。
今回は、ノンエイジが「まずい」と言われる誤解の正体を暴き、年数表記に縛られずに最高の一本を見つけるための知識を、余すことなくお伝えします。
なぜ「ノンエイジはまずい」という噂が広まったのか?
まず、火のない所に煙は立たぬと言いますが、なぜノンエイジに対してネガティブなイメージを持つ人がいるのでしょうか。その理由は、ウイスキーの「若さ」にあります。
ウイスキーのラベルに年数が書かれている場合、それは「混ぜられた原酒の中で、最も若いものの年数」を指します。つまり「12年」と書かれていれば、15年や20年の原酒が入っていても、表記は12年になります。
一方でノンエイジは、3年や5年といった比較的若い原酒をベースに作られることが多いです。若い原酒には、アルコール特有のピリピリとした刺激や、エステリーすぎる(ツンとする)香りが残っていることがあります。これをストレートで飲んだ初心者が「うわっ、きつい!まずい!」と感じてしまうのが、悪評の主な原因です。
しかし、これは「ノンエイジ=低品質」という意味ではありません。むしろ、その若さこそが武器になることもあるのです。
数字の呪縛から解き放たれた「ブレンダーの自由」
ここが一番面白いポイントなのですが、ノンエイジ最大のメリットは「ブレンダーが自由に味を設計できること」にあります。
年数表記があるボトルは、どうしてもその年数の個性を守らなければなりません。しかしノンエイジにはその縛りがありません。例えば、サントリー シングルモルトウイスキー 山崎のノンエイジを例に挙げてみましょう。
このボトルには、ミズナラ樽貯蔵モルトやワイン樽貯蔵モルトなど、非常に個性豊かな原酒が複雑に組み合わされています。ブレンダーは「12年」という数字を守る必要がないからこそ、あえて数年程度のフレッシュな原酒で力強さを出し、一方で20年を超えるような超高酒齢の原酒を「隠し味」として少量ブレンドし、深みを与えるといった芸当ができるのです。
つまり、ノンエイジは「熟成期間の平均点」ではなく、「ブレンダーが描いた理想の味の完成形」なのです。
世界的な原酒不足が「名作ノンエイジ」を生んだ
近年、世界的なウイスキーブームによって、長期熟成された原酒が圧倒的に足りなくなっています。各蒸留所は、12年や18年といった定番ラインナップを維持するのが精一杯、あるいは休売に追い込まれるケースも増えました。
そんな逆境の中で生まれたのが、創意工夫に満ちたノンエイジたちです。
例えば、アードベッグ アン・オー。これは複数の樽で熟成された原酒を「ギャザリング・バット」と呼ばれる大きな樽でじっくり馴染ませることで、ノンエイジとは思えないほど滑らかでスモーキーな味わいを実現しています。
また、スコットランド以外の地域、例えば台湾のカバランなどは、亜熱帯の気候を利用して「短期間で急速に熟成させる」手法をとっています。ここでは「年数」という概念自体が通用しません。3年熟成でも、スコットランドの10年以上に匹敵する色と香りがつくからです。
このように、現代のノンエイジは「年数表記の代用品」ではなく、戦略的な「主力製品」として開発されているのです。
失敗しない!ノンエイジウイスキーの賢い選び方
では、実際に店頭でノンエイジを選ぶとき、どこに注目すればいいのでしょうか。ハズレを引かないためのチェックポイントを整理しました。
- 「カスクフィニッシュ」に注目するラベルに「シェリーカスク終了」や「ピーテッド」といった特徴が書かれているノンエイジは狙い目です。若い原酒のトゲを、樽の強い個性で上手くコーティングしているため、飲みごたえがあり満足度が高い傾向にあります。
- 「定番品」のノンエイジから始めるザ・マッカラン ダブルカスク 12年のような有名ブランドが、あえて年数表記を外して出しているシリーズ(例:エディションシリーズやクエストコレクションなど)は、ブランドのプライドがかかっているため、非常にクオリティが高いです。
- ハイボールで飲むことを前提にするノンエイジの良さは「フレッシュな香り」と「キレの良さ」です。これはハイボールにすると最高に化けます。ストレートでは少しきついと感じるボトルも、炭酸で割ることで隠れていたフルーティーさが一気に花開きます。
楽しみ方を広げる「加水」の魔法
もし買ってみたノンエイジが「やっぱり少しアルコールが強いな」と感じたら、諦める前に試してほしいことがあります。それが「加水」です。
ティースプーン一杯の常温の水を、グラスに垂らしてみてください。ウイスキーの中の香りの成分(エステル)が水と反応し、一気に香りが立ち上がります。これを「ウイスキーがひらく」と言います。
ノンエイジは原酒が若いため、この変化が非常にダイレクトに現れます。自分好みの「ちょうどいい度数」を探るのも、ノンエイジならではの楽しみ方と言えるでしょう。
現代のスタンダードとしてのノンエイジ
今や、世界的なコンペティションでノンエイジのウイスキーが最高賞を受賞することも珍しくありません。かつてのような「熟成年数こそが正義」という時代は終わりを告げました。
もちろん、20年、30年と眠り続けたウイスキーの円熟味は格別です。しかし、現代の私たちが日常で楽しむ「刺激的で、華やかで、自由な」ウイスキー体験を支えているのは、間違いなくノンエイジの存在です。
白州 シングルモルト ノンヴィンテージをキンキンのハイボールにして、森の香りを堪能する。ラフロイグ セレクトカスクで、強烈なピートの洗礼を浴びる。これらはすべて、ノンエイジだからこそ気軽に楽しめる贅沢なのです。
ウイスキーのノンエイジはまずい?熟成年数に縛られない究極の1本を選ぶ全知識
さて、ここまで読んでくださったあなたなら、もう「ノンエイジだから」という理由で敬遠することはないはずです。
「まずい」という先入観は、多くの場合、飲み方や選び方のミスマッチから生まれます。年数という数字のフィルターを外して、自分の鼻と舌で「美味しい」と感じる一本を探してみてください。
そこには、12年物や18年物では決して味わえない、躍動感あふれるウイスキーの世界が広がっています。次に酒屋さんに足を運んだときは、ぜひラベルの数字ではなく、そのボトルが語りかけてくる「コンセプト」や「樽の個性」に耳を傾けてみてくださいね。
きっと、あなたにとっての「究極の1本」が、ノンエイジの棚で待っているはずですから。

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