ウイスキーを一口飲んで「美味しい!」と感じたとき、その感動をどう言葉にすればいいか迷ったことはありませんか?「バニラっぽい」「なんだか煙くさい」といった断片的な感想は浮かんでも、バーのマスターや愛好家のようにスラスラと豊かな表現が出てこない。そんなもどかしさを感じている方は少なくありません。
実は、魅力的なウイスキーテイスティングノートを書くために特別な才能は必要ありません。いくつかの「型」と「コツ」を知るだけで、誰でも自分の感覚を鮮やかに記録できるようになります。
この記事では、ウイスキーの複雑な香りと味わいを言語化し、自分だけのテイスティングノートをプロ級に仕上げるためのステップを詳しく解説します。
なぜテイスティングノートをつけるのか?
ウイスキーの世界は広大です。スコッチ、ジャパニーズ、バーボン……。一生かけても飲みきれないほどの銘柄が存在します。そんな中で「自分の一本」を見つけ出すために、テイスティングノートは最強の武器になります。
記録をつける最大のメリットは、自分の好みが可視化されることです。「自分はシェリー樽由来のベリー系の香りが好きなんだ」「実はアイラ島のピート香よりも、ハイランドの穏やかなスモーキーさが落ち着く」といった傾向が分かれば、次の一本を選ぶ際の失敗が格段に減ります。
また、記憶は時間が経つと薄れてしまいますが、ノートがあれば当時の感動をいつでも鮮明に呼び起こせます。それはまさに、自分だけのウイスキー図鑑を作っていくような贅沢な趣味の時間なのです。
ステップ1:五感を研ぎ澄ます準備
ノートを書く前に、まずはウイスキーと向き合う環境を整えましょう。
まず用意したいのがグラスです。一般的なロックグラスも素敵ですが、テイスティングには香りを集める形状のグレンケアン ウイスキーグラスが最適です。口が少し窄まっていることで、ウイスキーが持つ繊細なアロマが逃げずに鼻腔へ届きます。
次に、水を用意しましょう。ウイスキーと同温の常温水がベストです。アルコール度数が高いウイスキーは、そのままだと刺激が強すぎて麻痺してしまうことがありますが、数滴の水を加えることで「香りの花」が開く瞬間があります。
ステップ2:外観(アピアランス)を観察する
まずはグラスを光に透かし、液体の色をじっくり眺めます。
色は熟成に使われた樽の種類や、熟成期間を物語る重要なヒントです。
- 白ワインのような明るい黄色なら、セカンドフィルのバーボン樽かもしれません。
- 深い琥珀色や赤みがかった色なら、シェリー樽の影響が強いことが推測できます。
また、グラスを軽く回したときに側面を流れる液体の跡(レッグス、または脚)にも注目してください。ゆっくりと落ちてくる場合は、アルコール度数が高いか、糖分や油分が豊富な「リッチなボディ」であることを示唆しています。
ステップ3:香り(ノーズ)を言語化する
ここが最も楽しく、かつ難しいステップです。ウイスキーには数百種類もの芳香成分が含まれていると言われています。いきなり細かい要素を当てようとせず、まずは大きなカテゴリーから絞り込んでいきましょう。
フルーティな香り
リンゴや梨のような爽やかなものから、マンゴーやパイナップルといった南国フルーツ、あるいはレーズンのようなドライフルーツまで様々です。
フローラル・ハーブな香り
華やかな花のような香り、あるいは切りたての芝生やミントのような清涼感。これらは蒸留所の個性が色濃く出る部分です。
ウッディ・スパイシーな香り
熟成樽から来るバニラ、キャラメル、シナモン、あるいはナッツのような香ばしさ。
ピーティ・スモーキーな香り
焚き火の煙、燻製、あるいは潮風や薬品のような独特の香り。初心者の方は「正露丸みたい」と感じることも多いですが、これも立派なテイスティング用語です。
ポイントは、自分の記憶にある「具体的なもの」に例えることです。「雨上がりの森の匂い」「お祭りの屋台の綿あめ」など、個人的な体験に基づいた表現こそが、ノートに血を通わせます。
ステップ4:味わい(パレット)と余韻(フィニッシュ)
一口含んだら、すぐに飲み込まずに舌全体に広げます。
ここでチェックするのは、味そのもの(甘味、酸味、塩味、苦味)と、口当たり(テクスチャー)です。
- シルクのように滑らかか、あるいはチクチクと刺激があるか。
- さらっとしているか、オイルのようにまとわりつくか。
そして飲み込んだ後の「余韻」を楽しみます。香りが鼻から抜けていく感覚、喉の奥に残る温かさ。これが長く続くものを「ロングフィニッシュ」と呼び、高品質なウイスキーの代名詞とされます。最後に残った味がチョコレートのような甘みか、あるいはオークの渋みか、じっくりと追いかけてみてください。
表現力を高めるトレーニングのコツ
「どうしても言葉が出てこない」という時は、無理に専門用語を使おうとしなくて大丈夫です。
まずは、身近な食べ物や飲み物と比較する癖をつけましょう。例えば、コーヒーを飲むときにも「これはナッツっぽいな」「酸味が強いな」と意識するだけで、味覚の解像度が上がります。
また、公式のテイスティングノートを答え合わせとして読むのも勉強になります。
例えばザ・マッカラン 12年を飲んだ後に公式サイトのノートを見て、「なるほど、これをドライフルーツと表現するのか!」という発見を繰り返すことで、語彙が自分のものになっていきます。
自分だけの「正解」を記録しよう
テイスティングノートに「間違い」はありません。
プロが「洋梨の香り」と言っていても、あなたが「熟したメロン」だと感じたなら、あなたのノートには「メロン」と書くべきです。なぜなら、そのノートは将来のあなたが読み返すためのものだからです。
気合を入れて1,000文字書く必要もありません。
「今日の仕事終わりに最高の一杯。チョコと一緒に飲んだら幸せだった」
そんな一行から始めても良いのです。大切なのは、あなたがその一杯をどう楽しんだかを残しておくことです。
最近ではスマートフォンのアプリで記録する人も増えていますが、紙のノートに万年筆で書き込むのもウイスキーらしい情緒があって素敵ですね。モレスキン ノートのような少し良いノートを用意すると、書くこと自体がイベントになります。
ウイスキーテイスティングノートの書き方ガイド!初心者でもプロ級に表現するコツ
ここまで読んでくださったあなたは、もう立派なテイスターの第一歩を踏み出しています。
ウイスキーテイスティングノートの書き方ガイド!初心者でもプロ級に表現するコツをまとめると、以下のようになります。
- まずはグラスと水を用意し、リラックスできる環境を整える。
- 色、香り、味、余韻の順番で、変化を楽しみながら向き合う。
- 大きなカテゴリーから徐々に具体的な表現へと深掘りしていく。
- 自分の記憶や経験に紐づいた「自分だけの言葉」を大切にする。
- 完璧を目指さず、まずは一行のメモから継続してみる。
ウイスキーは、グラス一杯の中に数十年という時間と、造り手の情熱が凝縮された芸術品です。その魅力を言葉として形に残すことは、ウイスキーへの最高のリスペクトでもあります。
今夜、お気に入りのボトルを開けたら、ぜひ隣に一冊のノートを置いてみてください。きっと、今まで気づかなかった新しい香りの扉が開くはずです。

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