京都の街を歩き、暖簾をくぐって運ばれてくる色鮮やかな料理。その一口を口にした瞬間、心から「美味しい!」と感じるはずです。そんな時、もしあなたがさりげなく「京都の言葉」でその感動を伝えられたら、お店の方との距離がぐっと縮まり、旅の思い出はさらに深いものになるでしょう。
ドラマや映画で耳にする「おいしおす」という言葉。憧れはあるけれど、実際に使うのは少し勇気がいりますよね。また、京都には単に味を褒めるだけでなく、食感や素材への敬意を込めた独特の語彙がたくさん眠っています。
今回は、京都の食卓を彩る「美味しい」の表現から、知っておくと粋な食の挨拶、さらには現代の京都人がリアルに使っている生きた言葉までを詳しく紐解いていきます。
京都らしい「美味しい」の代表格「おいしおす」の魔法
京都弁と聞いて真っ先に思い浮かぶのが「おいしおす」ではないでしょうか。この言葉は、形容詞の「おいしい」に、京都独特の丁寧な助動詞「おす」が組み合わさったものです。
はんなりとした響きの美しさ
「おいしおす」という響きには、どこか丸みがあり、上品でゆったりとした時間が流れているような感覚があります。舞妓さんや芸妓さん、あるいは老舗旅館の女将さんが使うイメージが強い言葉ですが、実は一般の女性が少し丁寧な場面で使っても決して不自然ではありません。
語尾に「なぁ」を添えて共有する
さらに京都らしさを出すなら「おいしおすなぁ」と、語尾に「なぁ」を付けてみてください。これは独り言ではなく、相手に対して「本当に美味しいですね」と同意を求めたり、感動を分かち合ったりするニュアンスが含まれます。カウンター越しの職人さんや、一緒に食事をしている相手に優しく語りかける時にぴったりの表現です。
現代のリアルな使い分け
ただし、現代のカジュアルな定食屋やカフェで、若い世代が「おいしおす」を連発することは少なくなっています。日常的には「これ、美味しいわぁ」「めっちゃ美味しいな」といった、共通語に近いけれど語尾に柔らかなイントネーションを乗せた表現が主流です。TPOに合わせて、少し背筋を伸ばしたいお店で「おいしおす」を使ってみる。そんな使い分けこそが、大人の京都遊びの醍醐味と言えるでしょう。
味の深みを表現する「まったり」という最高の褒め言葉
京都の人が食べ物を褒める際、よく使う言葉に「まったり」があります。全国的にも使われる言葉ですが、京都における「まったり」には、他とは違う特別な意味が込められています。
単なる「のんびり」ではない味の表現
一般的に「まったり」というと、時間がゆっくり流れる様子や、のんびりした状態を指すことが多いですよね。しかし、京都の食の現場で「まったりしたお味ですね」と言えば、それは最大級の賛辞になります。
具体的には、以下のような状態を指します。
- 口当たりがとろんとしていて、なめらかである。
- コクがあり、味が幾重にも重なって深みがある。
- 角が立っておらず、まろやかで余韻が長い。
どんな料理に使うのが正解?
例えば、丁寧に時間をかけて作られた白味噌のお味噌汁。あるいは、じっくりと熟成された日本酒。出汁の旨みが凝縮された煮物などに対して使われます。単に「甘い」「辛い」といった平面的な感想ではなく、その料理の背後にある手間暇や、素材の調和を感じ取った時にこそ出る言葉なのです。
もし京都で素晴らしいお出汁の料理に出会ったら、ぜひ「まったりとして、ええお味やわぁ」と呟いてみてください。作り手は「この人は味のわかる人だ」と、きっと心の中で喜んでくれるはずです。
食材への愛が伝わる「お〜さん」と「炊いたん」の文化
京都の言葉には、食べ物を単なる「物」としてではなく、自然の恵みとして敬う心が息づいています。それが顕著に現れるのが、食材の呼び方です。
擬人化するような親しみやすさ
京都では、多くの食材に「お」を付け、さらに「さん」を添えて呼びます。
- お豆さん(豆類)
- お芋さん(さつまいもや里芋)
- おこうこさん(たくあん、お漬物)
- おあげさん(油揚げ)
このように呼ぶことで、食卓がパッと華やぎ、食材への愛着が湧いてくるから不思議です。スーパーで買い物をする時や、おばんざい屋さんでお品書きを見る時、これらの呼び方を意識するだけで、京都の家庭の温もりに触れたような気持ちになれます。
「炊いたん」という魔法の響き
また、京都の家庭料理(おばんざい)で欠かせないのが「炊いたん」という表現です。「煮物」のことを京都では「炊いたん」と呼びます。
「かぼちゃの炊いたん」「大根の炊いたん」など、素材の名前の後に付けるだけで、出汁がじゅわっと染み出した美味しそうな風景が浮かんできます。
ここでもう一つ覚えておきたいのが「しゅんでる」という言葉です。出汁が中までしっかりと染み込んでいる状態を「味がようしゅんでる(染みている)」と言います。冬の寒い日に、味がしっかりしゅんだお大根を食べる。これこそが京都の至福のひとときです。
食前・食後の挨拶に宿る京都の精神
「美味しい」を伝える前段階として、食事の挨拶も京都らしい表現を知っておくと、よりスマートです。
「よばれる」という謙虚な姿勢
誰かの家で食事をいただく時や、ご馳走になる時、京都の人は「よばれる」と言います。
「今日はお昼、よばれに行きます(ご馳走になりに行きます)」
「これ、よばれてもいいですか?(いただいてもいいですか?)」
という使い方をします。単に「食べる」と言うよりも、相手からの招きや厚意に感謝する気持ちが強く込められた、とても奥ゆかしい表現です。
「よろしゅうおあがりやす」の響き
食事が終わった後、お店を出る時に「ご馳走様でした」と言うと、お店の方から「よろしゅうおあがりやす」と声をかけられることがあります。
これは「召し上がれ」という意味でも使われますが、食後においては「お粗末様でした」「召し上がっていただいて良かったです」という、送り出す側の温かい挨拶です。こうしたやり取りの中に、京都の「おもてなし」の本質が隠れています。
料理の完成度を称える「あんじょう」の使い方
京都弁には「あんじょう」という便利な言葉があります。「上手に」「具合よく」「いい具合に」といった意味を持ち、料理を褒める際にも非常に重宝します。
「あんじょう炊けてる」という表現
例えば、ご飯の炊き加減が完璧だった時や、魚の煮付けが崩れず綺麗に仕上がっている時に、「あんじょう炊けてますね」と言います。
これは単に「味が美味しい」というだけでなく、「技術的に素晴らしい」「丁寧に仕事がなされている」という、職人や料理人への敬意を含む言葉になります。
京都は職人の街でもあります。見た目の美しさや調理の精度を褒めることは、そのお店のこだわりを認めることと同義です。少し高度な表現ですが、もし自信があれば使ってみてください。
京都の食卓で役立つ便利アイテム
京都の美味しい料理を自宅でも再現したり、より楽しんだりするために、持っておくと便利なアイテムをいくつかご紹介します。
まず、京都の「まったり」した味を支えるのは、何と言っても良質なお出汁です。プロのような深い味わいを家庭で出すなら出汁パックが非常に便利です。これ一つで、おばんざいの味が格段にレベルアップします。
また、京都の食卓に欠かせない「おこうこさん(お漬物)」を美しく盛り付けるなら、少しこだわった豆皿を揃えてみるのも楽しいでしょう。小さな器に少しずつ盛り付けるのが京都流。視覚からも「おいしおす」な体験を演出できます。
旅行中に京都の言葉をより深く学びたい、あるいは現地で美味しいお店を京都弁のニュアンスと共に探したいという方には、最新の情報をチェックできるiphoneなどのスマートフォンも欠かせません。地図アプリで路地裏の名店を探しながら、この記事で紹介した言葉を予習してみてください。
京都弁で「美味しい」は何と言う?粋な表現で旅を彩るまとめ
京都の言葉は、長い歴史の中で育まれた「相手への気遣い」と「万物への感謝」から成り立っています。
「美味しい」という一言も、京都弁では以下のように多彩な表情を見せます。
- 上品に感動を伝える**「おいしおす」**
- 深みとコクを称賛する**「まったり」**
- 出汁の染み具合を愛でる**「しゅんでる」**
- 食材への親愛を込めた**「お豆さん」「炊いたん」**
これらすべての言葉に共通しているのは、目の前の食事をただ消費するのではなく、慈しむように楽しむという姿勢です。
もしあなたが京都を訪れ、素晴らしい料理に出会ったなら、共通語の「美味しい」の代わりに、そっと「おいしおすなぁ」と言葉を添えてみてください。その瞬間、あなたと京都の街の間に、温かい風が吹き抜けるはずです。
言葉を知ることは、その土地の文化を知ること。京都弁で「美味しい」は何と言うかを理解したあなたの次の旅は、きっとこれまで以上に味わい深いものになるでしょう。

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