かつて日本の食卓を鮮やかに彩り、ウイスキーの概念をガラリと変えた銘柄があったことを覚えているでしょうか。その名はサントリー ウイスキー 膳。1998年の登場以来、それまで「夜の街の飲み物」だったウイスキーを、お茶の間や夕食の席へと連れ出した立役者です。
「和食に合うウイスキー」という、当時としては画期的すぎるコンセプトを掲げたこのボトルは、なぜ多くの日本人に愛され、そして惜しまれつつ姿を消したのか。今回は、今なおオークションサイトなどで探し求めるファンが絶えないウイスキー 膳の魅力を、その独自の製法や歴史から紐解いていきます。
和食のために生まれた「淡麗旨口」の衝撃
1990年代後半、日本のウイスキー市場は冬の時代を迎えていました。「ウイスキーは香りが強すぎて料理の邪魔をする」「アルコールが強くて食事と一緒に楽しめない」といった声が一般的だったのです。そんな常識を打ち破るためにサントリーが開発したのが膳でした。
開発チームが目指したのは、日本人が愛する「出汁(だし)」の文化に寄り添う味わい。そこでキーワードとなったのが「淡麗旨口」という言葉です。日本酒の表現で使われるこの言葉をウイスキーに持ち込み、刺身や煮物といった繊細な和食の味をいっそう引き立てる、透明感のある旨味を追求しました。
この「淡麗旨口」を実現するために採用されたのが、サントリー独自の「竹炭ろ過」という贅沢なプロセスです。
独自の「竹炭ろ過」が作り出す魔法の口当たり
ウイスキー 膳の最大の特徴といえば、何といっても竹炭ろ過による雑味の除去です。通常、ウイスキーは原酒が持つ力強いピート香やスモーキーさを個性として楽しみますが、膳はその個性をあえて「磨き上げる」ことに注力しました。
日本の伝統的な素材である竹炭には、非常に優れた吸着作用があります。蒸留された原酒を竹炭の層に通すことで、口当たりのトゲや重すぎる成分を丁寧に取り除きました。これによって生まれたのが、水のようにスルスルと喉を通る滑らかさと、後味にふわりと残る麦本来の柔らかな甘みです。
この「引き算の美学」こそが、当時の日本人の味覚にマッチしました。特に水割りにした時のバランスは秀逸で、氷が溶けても崩れない芯のある味わいは、まさに晩酌のためのウイスキーでした。
二条大麦100%へのこだわりと「ピュアモルト」の誇り
驚くべきことに、発売当時のサントリー 膳は、厳選された二条大麦だけを原料とした「ピュアモルトウイスキー」としてラインナップされていました。現在ではモルト原酒が高騰し、手頃な価格でピュアモルトを提供するのは非常に困難ですが、当時はこの贅沢な仕様が1,000円台という驚きの価格で提供されていたのです。
二条大麦100%が生み出すコクは、竹炭ろ過によるクリアな飲み口と見事に融合していました。「軽いけれど、薄くない」。この絶妙なバランスが、飲みごたえを求めるウイスキーファンをも納得させた理由です。その後、時代の変遷とともにブレンデッドへと構成は変わっていきますが、その根底にある「麦の旨味を活かす」という精神は最後まで貫かれていました。
真田広之氏のCMが変えた「ウイスキーのある風景」
ウイスキー 膳を語る上で欠かせないのが、俳優・真田広之氏を起用したテレビCMの存在です。和服姿や洗練されたカジュアルな装いで、美味しそうなおつまみと共に「膳」を楽しむ真田氏の姿は、お茶の間に強烈なインパクトを与えました。
「和食に、膳。」
このシンプルなメッセージは、それまでウイスキーに対して「敷居が高い」「自分たちの飲み物ではない」と感じていた層に、新しいライフスタイルとして定着しました。CMの演出も、これまでの重厚なバーの雰囲気ではなく、明るいダイニングや清潔感のある割烹のような設定が多く、日本の家庭における「食中酒」としての地位を確立する大きな後押しとなりました。
なぜ「膳」は終売してしまったのか?
多くのファンに愛され、一時はサントリーの主力製品の一つだった膳ですが、2010年頃にその歴史に幕を閉じました。なぜ、これほどの名品が終売という道を選んだのでしょうか。そこには、日本のウイスキー市場の大きな構造変化がありました。
最大の理由は「ハイボールブーム」の到来です。2008年頃から始まったサントリー 角瓶を中心としたハイボールの再ブームにより、市場の需要が激変しました。「角瓶」が圧倒的なシェアを占める中で、サントリーはブランドの選択と集中を行う必要に迫られたのです。
また、世界的なウイスキー需要の拡大に伴う「原酒不足」も影響したと考えられます。特定のコンセプトに基づいた「膳」のような銘柄に原酒を割り当てるよりも、グローバルに展開できる銘柄や、より汎用性の高い「角瓶」へ原酒を優先的に配分する戦略へとシフトしていった結果、惜しまれつつも姿を消すことになりました。
今「膳」の代わりになるウイスキーはあるか?
一度あの「淡麗旨口」を味わったファンにとって、ウイスキー 膳の代わりを見つけるのは至難の業です。しかし、サントリーの現行ラインナップの中には、その魂を継承しているといえるボトルがいくつか存在します。
- サントリー 白角「膳」と同じく、和食に合うことを想定して開発されたボトルです。辛口でキレのある後味は、かつての「膳」ファンからも高い支持を得ています。数量限定で販売されることも多いため、見かけた際は迷わず手に入れるべき一本です。
- サントリー 知多シングルグレーンウイスキーである「知多」は、その軽やかさとクリーンな甘みが特徴です。竹炭ろ過とは手法が異なりますが、「料理を邪魔しない」「風のように軽やか」という点において、現代における「膳」の精神的後継者といえるかもしれません。
- サントリー オールド「膳」よりも重厚感はありますが、日本の食卓に合うように設計された歴史的な名作です。水割りにした時の柔らかな甘みは、どこか懐かしい「膳」のニュアンスを感じさせてくれます。
復活の噂と現代における価値
ネット上では時折「膳が復活するのではないか」という噂が飛び交うことがあります。それだけ、再販を望む声が根強いということです。残念ながら現時点でサントリーから公式なアナウンスはありませんが、昨今のジャパニーズウイスキーブームや、レトロモダンな文化への回帰を考えると、期間限定でも「竹炭ろ過」の技術を活かした新商品が登場することを期待せずにはいられません。
現在、ウイスキー 膳を飲むためには、リカーショップのデッドストックやオークションサイトで「オールドボトル」を探すしかありません。もし未開封のボトルに出会えたなら、ぜひ当時のCMを思い出しながら、丁寧な水割りで作ってみてください。現代のウイスキーにはない、優しく凛とした「和」の心を感じることができるはずです。
サントリーの伝説的ウイスキー「膳」とは?味の評価や終売理由、復活の噂を徹底解説!:まとめ
日本の食文化に革命を起こしたウイスキー 膳。それは単なるアルコール飲料ではなく、日本の四季や食卓の風景を大切にするサントリーの哲学が詰まった結晶でした。
「竹炭ろ過」が生み出したあの澄み切った味わいは、今でも多くの人の記憶の中で輝き続けています。現行のウイスキーでその面影を追うのも一つの楽しみですが、いつかまた、あのスクエアなボトルが食卓に並ぶ日が来ることを願ってやみません。もしあなたが、かつての「膳」のような繊細な体験を求めているなら、まずは現在のサントリーが提案するサントリー 白角や知多を手に取ってみてはいかがでしょうか。そこには、脈々と受け継がれる「和食とウイスキー」の幸福な関係が、今も確かに息づいています。

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