広島の風土を一本のボトルに詰め込んだ「ウイスキー桜尾」。最近、ウイスキー愛好家の間でその名を聞かない日はありません。しかし、ネット上では「本当に美味しいの?」「若いからまずいのでは?」といった不安な声もちらほら見かけます。
今回は、そんなサクラオブルワリーアンドディスティラリーが生み出す珠玉のシングルモルトについて、その正体を深掘りしていきます。
広島の地から世界へ挑む「桜尾蒸留所」の正体
ウイスキー造りにおいて、場所選びは命です。桜尾蒸留所があるのは、広島県廿日市市。世界遺産・宮島を対岸に望む瀬戸内海のすぐそばに位置しています。
運営しているのは、100年以上の歴史を持つ老舗「サクラオブルワリーアンドディスティラリー(旧・中国醸造)」です。もともとは日本酒や焼酎、そして「戸河内ウイスキー」というブレンデッドウイスキーで知られていましたが、2017年に満を持して純国産のシングルモルト造りに着手しました。
ここで面白いのが、彼らの「熟成」に対するこだわりです。蒸留所内にある海沿いの貯蔵庫だけでなく、山あいの廃道となった鉄道トンネル内にも貯蔵庫を持っています。「海」と「山」、この2つの異なる環境が、桜尾の多面的な味わいを生み出す鍵となっているのです。
「まずい」という噂はどこから来るのか?その真相に迫る
検索窓に「ウイスキー 桜尾」と打ち込むと、予測変換に「まずい」という不穏なワードが出てくることがあります。せっかく買おうと思っているのに、これでは二の足を踏んでしまいますよね。
結論から言うと、これは「好みのミスマッチ」と「熟成年数の若さ」に起因するものがほとんどです。
まず、クラフト蒸留所の宿命として、大手メーカーの12年熟成ものなどに比べると、どうしてもアルコールの「角」が立ちやすい傾向にあります。これを「ピリピリして飲みにくい」と感じる人がいるのは事実です。
また、桜尾の最大の特徴である「潮気(しおけ)」もポイント。海沿いで熟成された原酒は、どことなくミネラル感や塩っぽさを纏います。スコッチのアイランズモルトが好きな方にはたまらない個性ですが、甘くてフルーティーなウイスキーだけを求めている方には、少し意外な味に感じられるのかもしれません。
しかし、これは決して「品質が低い」ということではありません。むしろ、その若々しいエネルギーや独特の潮風のニュアンスこそが、世界中のコンペティションで高く評価されている理由なのです。
シングルモルト桜尾の主要ラインナップと味の違い
シングルモルト桜尾には、大きく分けていくつかの定番ラインナップが存在します。それぞれの個性を理解することで、自分にぴったりの一本が見つかるはずです。
シングルモルト桜尾(スタンダード)
まずはこれから試してほしいのが、青いラベルが印象的なスタンダードボトルです。
- 香り:完熟したグレープフルーツのような柑橘系、バニラ、そして微かなスモーキーさ。
- 味わい:口に含むと、まずは柔らかな甘みが広がり、その後に瀬戸内海の潮風を思わせる塩味が追いかけてきます。
- 余韻:ウッディな香りと、心地よいビターな余韻が長く続きます。
シングルモルト桜尾 シェリーカスク
より濃厚でリッチな体験を求めるなら、赤いラベルのシェリーカスクがおすすめです。
- 香り:レーズン、ドライフルーツ、カカオ、オレンジピール。
- 味わい:シェリー樽由来の濃密な甘みと酸味がバランスよく混ざり合います。
- 余韻:ダークチョコレートのような深みのある甘みが、じんわりと喉の奥に残ります。
シングルモルト戸河内(との対比)
同じ蒸留所で造られた原酒を、山あいのトンネルで熟成させたのが「戸河内」です。桜尾が「動(海)」なら、戸河内は「静(山)」。
- 特徴:一年中温度が変わらない冷涼なトンネルでゆっくり熟成されるため、桜尾よりもエステリー(華やか)で、青リンゴのような清涼感が際立ちます。
ウイスキー桜尾を最高に美味しく楽しむための飲み方
「ちょっとアルコールが強いかも?」と感じた時に、ぜひ試してほしい飲み方をご紹介します。桜尾は、少しの手を加えるだけで劇的に表情を変える面白いウイスキーです。
1. 少量加水(ドロップ)
ストレートで飲む際、ティースプーン1杯の水を垂らしてみてください。これを「加水(かすい)」と呼びますが、水が入ることでウイスキーの分子が弾け、隠れていた香りが一気に花開きます。アルコールの刺激が和らぎ、桜尾特有のフルーティーさが前に出てきます。
2. オン・ザ・ロック
筆者が最もおすすめしたいのがロックです。氷で冷やされることで甘みが引き締まり、溶け出した加水分によって潮の香りが程よくマイルドになります。ゆっくりと氷を溶かしながら、刻一刻と変わる味わいを楽しむのは至福の時間です。
3. ハイボール(食事とともに)
桜尾の潮感は、料理との相性が抜群です。特に広島名産の「牡蠣」のオイル漬けや、塩焼き鳥、お刺身など、和食全般によく合います。強炭酸で割ることで、口の中をさっぱりとさせつつ、ウイスキーの麦の甘みが料理を引き立ててくれます。
プレゼントや自分へのご褒美に選ぶ際のポイント
ジャパニーズウイスキーが世界的に品薄で高騰している中、桜尾は比較的「適正価格」で手に入りやすいのも魅力の一つです。
もし、あなたが力強く個性的な味が好きなら「桜尾」を。華やかで繊細な味が好きなら「戸河内」を選ぶのが定石です。また、木箱入りの限定ボトルなどもリリースされているため、ウイスキー好きの方への贈り物としても、そのストーリー性を含めて喜ばれること間違いありません。
広島の伝統的な技術と、瀬戸内が生み出す唯一無二の気候。その掛け合わせで生まれたこのウイスキーは、決して「まずい」の一言で片付けられるようなものではありません。むしろ、日本のクラフトウイスキーの夜明けを感じさせる、非常にポテンシャルの高い一本と言えるでしょう。
ウイスキー桜尾の味や種類を徹底解説!まずいという噂の真相とおすすめの飲み方は?
さて、ここまで「ウイスキー桜尾」の魅力を余すことなくお伝えしてきました。
ネットの評判に惑わされず、まずはその個性的な「潮風の香り」を自身の舌で確かめてみてください。若々しい原酒が持つエネルギーは、飲み方一つで驚くほどエレガントな表情に変わります。
広島の海と山が育んだこのシングルモルトをグラスに注ぎ、ゆっくりと流れる時間を楽しむ。そんな贅沢なひとときを、ぜひウイスキー桜尾とともに過ごしてみてはいかがでしょうか。一度その独特のバランスにハマれば、きっと次の一杯が恋しくなるはずです。

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