バーのカウンターでメニューを眺めているとき、ふと不思議に思ったことはありませんか?「あれ、このラベルはWhiskyなのに、こっちはWhiskeyになっているぞ」と。
実はこれ、単なるスペルミスではないんです。ウイスキーの世界において、この「e」の一文字があるかないかは、そのお酒が歩んできた歴史やプライドを物語る重要なサイン。
今回は、知っているとちょっと自慢できる「ウイスキーのスペルの謎」について、その由来から簡単な覚え方まで、ウイスキー初心者の方にもわかりやすくお届けします。
なぜ2種類の綴りが存在するの?その意外な理由
ウイスキーの綴りには「whisky」と「whiskey」の2パターンがあります。結論から言うと、どちらも正解。間違いではありません。
では、なぜわざわざ2つの書き方が存在するのでしょうか。そこには、19世紀のウイスキー業界で起きた「熾烈なブランド争い」が隠されています。
もともと、ウイスキーの語源はゲール語で「命の水」を意味する「ウシュク・ベーハー(Uisge Beatha / Uisce Beatha)」です。当時は綴りなんてあいまいで、みんな適当に書いていました。
事態が動いたのは1800年代後半のこと。当時、アイルランド(アイリッシュ・ウイスキー)は、世界で最も高品質で高級なウイスキーとして君臨していました。
一方で、お隣のスコットランド(スコッチ・ウイスキー)では、新しい蒸留機が発明され、安くて軽いウイスキーが大量に造られるようになります。これに危機感を覚えたのがアイルランドの蒸留業者たちです。
「あんな安物と一緒くたにされては困る!俺たちのは『e』が入った特別な『Whiskey』だ!」
こうして、自分たちのブランドの格の違いを示すために、あえて「e」を付け足して差別化を図ったのが始まりと言われています。つまり、この「e」は当時のアイルランド人の「プライドの証」だったわけですね。
国によって決まっている?スペルの使い分けルール
現在では、このスペルの違いは「どこの国で造られたか」という生産国ごとのルールとして定着しています。主要な生産国の使い分けを見てみましょう。
「e」を入れない派(Whisky)
スコットランドを筆頭に、その製造スタイルを模範とした国々がこちらを採用しています。
- スコットランド(スコッチ)
- 日本(ジャパニーズ)
- カナダ(カナディアン)
日本のウイスキーの父・竹鶴政孝氏が修行したのはスコットランドでした。そのため、サントリーやニッカといった日本のメーカーも、スコッチの流れを汲んで「Whisky」と表記しています。
「e」を入れる派(Whiskey)
アイルランドと、その影響を強く受けたアメリカがこちら。
- アイルランド(アイリッシュ)
- アメリカ(バーボン、テネシーなど)
アメリカのウイスキー産業は、アイルランドからの移民によって発展した歴史があります。そのため、アメリカでもアイリッシュ流の「e」入りスペルが一般的になりました。
迷った時に役立つ!一瞬で判別できる「魔法の覚え方」
「どっちがどっちだっけ?」と混乱してしまった時のために、英語圏でよく使われる便利な覚え方をご紹介します。
それは、**「国名の英語表記に『e』が入っているかどうか」**をチェックすることです。
- 「e」が含まれる国(Whiskey)
- Ireland(アイルランド)
- United States(アメリカ)
- 「e」が含まれない国(Whisky)
- Scotland(スコットランド)
- Japan(日本)
- Canada(カナダ)
どうですか?これなら一発で思い出せますよね。アイルランドとアメリカには「e」があるから、ウイスキーの綴りにも「e」が必要。それ以外の国は不要。実にシンプルです。
例外を知ればもっと面白い!こだわり派の銘柄たち
基本ルールがわかったところで、ちょっとした「例外」にも触れておきましょう。ウイスキーの世界は奥深く、あえてルールを破ることで個性を主張する銘柄があるんです。
アメリカ産なのに、頑なに「e」を使わず「Whisky」と表記する代表格が メーカーズマーク です。
メーカーズマークの創業者一族はスコットランド系。自分たちのルーツであるスコットランドへの敬意を込めて、アメリカンウイスキーでありながらスコッチ式の綴りを選びました。ボトルを手に取ったら、ぜひラベルの文字を確認してみてください。
他にも ジョージディッケル など、あえて「e」を抜くことで「スコッチに負けない品質」をアピールしている銘柄もあります。
カタカナでは「ウイスキー」?それとも「ウィスキー」?
スペルの問題と並んでよく聞かれるのが、日本語のカタカナ表記についてです。
「ウイスキー」と「ウィスキー」、どちらが正しいのか。結論を言えば、日本では**「ウイスキー」**が公式な表記とされています。
- 日本の法律(酒税法)での表記は「ウイスキー」
- NHKなどの放送用語でも「ウイスキー」
- サントリーやニッカなどの大手メーカーも「ウイスキー」
「ウィ」の方が英語の発音に近い気もしますが、公的な場面や商品紹介では大きい「イ」を使った「ウイスキー」と書くのが無難です。
ちなみに、ニッカウヰスキーのように「ヰ(ゐ)」という古い文字を使っているケースもありますが、これも歴史を感じさせるブランド戦略の一つですね。
スペルがわかると、ウイスキー選びがもっと楽しくなる
「whisky」と「whiskey」。
たった一文字の違いですが、そこには生産者のルーツや、かつての業界のプライド、そして海を渡って受け継がれた歴史が詰まっています。
バーでボトルを見かけたとき、「これは『e』が入っているからアイリッシュ系かな?」と想像を膨らませる。それだけで、いつもの一杯が少しだけ味わい深く感じられるはずです。
もし、これから家飲みを始めようと思っているなら、スコッチスタイルの ジョニーウォーカー や、アメリカンスタイルの ジャックダニエル など、スペルの違いを意識して飲み比べてみるのも面白いかもしれません。
まとめ:ウイスキーのスペルはどっち?whiskyとwhiskeyの違いや由来、覚え方を徹底解説!
最後に、今回ご紹介した内容を振り返ってみましょう。
- **「Whisky」**はスコットランド、日本、カナダなどの主流派。
- **「Whiskey」**はアイルランド、アメリカの伝統派。
- 覚え方は、国名に**「e」**が入っているかどうかで判断する。
- メーカーズマークのように、あえてルールを外れるこだわりの銘柄もある。
- 日本語の正解は、公的には**「ウイスキー」**。
次に誰かとウイスキーを飲むときは、ぜひこのスペルの話をネタにしてみてください。きっと、「ただの酔っ払い」から「ウイスキーに詳しい通な人」へと一目置かれること間違いなしです。
あなたのグラスに注がれたその黄金色の液体が、どんなスペルを背負ってここまでやってきたのか。そんなことに思いを馳せながら、今夜も素敵なウイスキータイムを!

コメント