かつてサントリーのラインナップにおいて、最高峰の座に君臨していた伝説のボトルをご存知でしょうか。その名は「サントリーウイスキー インペリアル」。
1964年の東京オリンピック開催に合わせて誕生し、当時のブレンダーたちが持てる技術の粋を集めて造り上げた、まさに日本のウイスキーの至宝です。現在は終売となってしまいましたが、その圧倒的な存在感と美しいクリスタルデキャンタは、今なお多くの愛好家を魅了して止みません。
今回は、この「サントリーウイスキー インペリアル」がなぜこれほどまでに高く評価されているのか、その歴史や味わい、そして気になる現在の価値までを深掘りしていきます。
日本のプライドを懸けて誕生した最高級の逸品
「サントリーウイスキー インペリアル」が誕生したのは、日本中が熱狂に包まれていた1964年。戦後の復興を象徴する東京オリンピックの年に、「世界に通用する最高のウイスキーを」という熱い想いから開発されました。
当時のサントリー(当時は寿屋から社名変更した直後)にとって、この銘柄は単なる新商品ではありませんでした。初代マスターブレンダーであり創業者の鳥井信治郎氏から受け継いだ技術を、次世代の佐治敬三氏が形にした「サントリーの顔」だったのです。
当時のキャッチコピーには、「洋酒づくり八十余年のサントリーにして、はじめて醸し得る堂々の傑作」という言葉が添えられていました。この一文からも、当時のメーカー側がいかに絶対的な自信を持っていたかが伝わってきます。
発売当時の価格は12,000円。現在の貨幣価値に換算すると、当時の大卒初任給が2万円程度だった時代ですから、どれほど贅沢な品だったかが分かります。まさに「選ばれし者のためのウイスキー」だったわけですね。
芸術品と称えられるカガミクリスタルのボトル
「サントリーウイスキー インペリアル」を語る上で欠かせないのが、そのあまりにも美しいボトルデザインです。
このボトルは、日本を代表するクリスタルガラスの名門「カガミクリスタル」によって製作されました。熟練の職人が一つひとつ手作業でカットを施したハンドカット・デキャンタは、光を浴びると宝石のように輝きます。
サントリーのこだわりは中身だけではありませんでした。「飲み終わった後も、自家製のデキャンタとして末永く愛用してほしい」という願いが込められていたのです。実際、当時の重役のデスクや高級クラブの棚には、この重厚なクリスタルボトルが必ずと言っていいほど鎮座していました。
重厚感のあるキャップ、優雅な曲線を描くボディ、そして手に取った時のずっしりとした重み。これらすべてが、飲む前から「これは特別なウイスキーだ」という期待感を高めてくれる演出となっていました。
時を超えて愛される濃厚でシルキーな味わい
では、肝心の中身はどうだったのでしょうか。「サントリーウイスキー インペリアル」のブレンドには、山崎蒸溜所に眠る超長期熟成のモルト原酒が惜しみなく投入されていました。
現代のウイスキーと比較すると、その特徴は「重厚感」と「圧倒的なコク」にあります。
- 香りの特徴グラスに注いだ瞬間、完熟したリンゴやドライフルーツを思わせる濃厚な甘い香りが広がります。さらに、山崎モルトらしいオリエンタルな香木(ミズナラ)のニュアンスや、バニラのような芳醇さが重なり合います。
- 味わいの特徴口当たりは驚くほどシルキーで滑らか。アルコールの角が完全に取れており、ハチミツやチョコレートのような深い甘みが舌の上で転がります。後半にかけては、長期熟成由来のウッディな渋みが全体を引き締め、非常にリッチな飲み心地を実現しています。
- 余韻の長さ飲み込んだ後も、喉の奥から立ち上がるスモーキーな余韻と甘い香りが長く、長く続きます。この贅沢な余韻こそが、インペリアルが「至宝」と呼ばれた最大の理由かもしれません。
現在のサントリーを代表する「サントリー 響」が多彩な原酒の「調和」を重視した洗練されたスタイルだとするならば、インペリアルはより「原酒の力強さと深み」をダイレクトに感じさせる、クラシックで力強いスタイルだと言えるでしょう。
2006年の終売とその後の市場の変化
これほどの傑作でありながら、「サントリーウイスキー インペリアル」は2006年にその歴史に幕を閉じました。
終売の理由は公式には明言されていませんが、原酒不足やラインナップの整理、そして後継となる「サントリー 響21年」などへのシフトが要因と言われています。
しかし、終売から時間が経つにつれ、その希少価値はどんどん高まっていきました。特に昨今の世界的なジャパニーズウイスキーブームが追い風となり、「かつての最高級品を一度でいいから飲んでみたい」というコレクターや愛好家が世界中に現れたのです。
現在では、デパートの棚で見かけることはまずありません。手に入れるには、オークションやフリマアプリ、あるいは一部のヴィンテージウイスキーを取り扱うバーを探すしか方法がないのが現状です。
所有している方は必見!現在の買取相場と価値
もし、ご自宅の押し入れや実家の床下収納、あるいは遺品整理の中で「サントリーウイスキー インペリアル」を見つけたら、それは「宝物」かもしれません。
現在の市場における価値を整理してみましょう。
- 完品(箱・冊子あり)の相場外箱(化粧箱)や、当時の中身を説明した冊子が揃っている状態であれば、非常に高い価値がつきます。現在の買取相場では、およそ25,000円から40,000円前後で取引されることが多いようです。
- ボトルのみの相場箱がなくても、中身が未開封であれば価値は十分にあります。この場合は15,000円から25,000円程度が目安となります。
- 価値を左右するポイント最も重要なのは「液面」です。未開封であっても、数十年の時を経て中身が蒸発(天使の分け前)していることがあります。液面がボトルの肩の部分よりも大幅に下がっていると、査定額は下がってしまいます。また、カガミクリスタル製のボトル自体に欠けや傷がないかも重要なチェックポイントです。
もし売却を考えているなら、ウイスキーの知識が豊富な専門店に依頼することをおすすめします。一般的なリサイクルショップでは、このボトルの希少性を見落とされてしまう可能性があるからです。
飲む前に知っておきたいオールドボトルの注意点
「せっかく見つけたのだから、自分で味わってみたい」という方も多いはず。しかし、数十年前にボトリングされた「サントリーウイスキー インペリアル」を飲む際には、いくつか注意すべき儀式があります。
- コルクの劣化に注意これが最大の難関です。インペリアルのような古いボトルのコルクは、乾燥して非常にもろくなっています。普通に栓を抜こうとすると、ポロッと折れて瓶の中に落ちてしまうことが多々あります。開栓の際は、ゆっくりと慎重に回しながら引き上げるか、万が一折れた時のために「ワイン用のパニエ」や「茶漉し」を用意しておくと安心です。
- 澱(オリ)についてボトルの底に沈殿物が見えることがありますが、これはウイスキーの成分が結晶化したもので、品質に問題はありません。気になる場合は、一度デキャンタージュして取り除くと、見た目も美しく楽しめます。
- 味わいの変化長期間の保存状態によっては、香りが閉じこもっている場合があります。グラスに注いだ後、少し時間を置いて空気に触れさせることで、眠っていた華やかな香りがゆっくりと開いていきます。
よくある間違い:スコッチの「インペリアル」との違い
ウイスキーを調べ始めると、少し混乱することがあります。実は、スコットランドにも「インペリアル」という名前の蒸溜所が存在していたからです。
- スコッチのインペリアルスペイサイド地方にあった蒸溜所で、現在は閉鎖されています。シングルモルトとして独立瓶詰業者(ボトラーズ)からリリースされることがありますが、こちらは全くの別物です。
- サントリーのインペリアル今回ご紹介している、日本製のブレンデッドウイスキーです。
検索や購入の際は、必ず「サントリー」というキーワードが入っているかを確認するようにしましょう。ラベルのデザインが全く異なるので一目で分かりますが、知識として持っておくと安心です。
昭和の贅沢を現代に伝えるタイムカプセル
「サントリーウイスキー インペリアル」を飲むということは、単にお酒を楽しむ以上の体験です。それは、1960年代の日本が持っていた熱量や、当時の職人たちが「世界一」を目指した情熱を、舌を通じて追体験することに他なりません。
現代の効率化されたウイスキー造りでは再現できない、贅沢な原酒の使い込みと、工芸品としての誇り。それらが一本のボトルに凝縮されています。
もしあなたがこのボトルを手にする機会に恵まれたなら、まずはストレートで、その重厚な歴史の重みを感じてみてください。少しずつ加水をすると、さらに隠れていたフローラルな香りが花開きます。
ウイスキー インペリアルの評価は不変の輝き
さて、ここまで「サントリーウイスキー インペリアル」の魅力について語ってきましたが、いかがでしたでしょうか。
かつての最高級品としての誇り、カガミクリスタルが彩る芸術的な造形、そして山崎の長期熟成原酒が織りなす極上の味わい。そのどれをとっても、現代の銘柄に引けを取らない、あるいはそれ以上の輝きを放っています。
終売から20年近くが経過し、市場から姿を消しつつある今、この「サントリーウイスキー インペリアル」はまさに幻の存在となりつつあります。
歴史の証人とも言えるこの名酒を、もしどこかで見かけることがあれば、それは運命かもしれません。昭和の日本が夢見た「最高のウイスキー」の香りに、ぜひ一度、身を委ねてみてはいかがでしょうか。

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